研究教育業績集 甲斐広文先生 教員生活25周年および教授就任10周年記念
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53 ったからである。帰国後に、ハムスターの分化誘導系を用いて、転写因子MEFをクローニングし、現存するプロジェクトへ展開した経緯がある。 そういった経緯から、今回の論文は、大変興味あった。基底細胞から一旦、初期幹細胞を経て、Notchシグナルの強度に応じて各細胞へと分化していくことを明らかにしている。Notchシグナルが軽度であると繊毛細胞、高いとクララ細胞の自己増殖、無いと杯細胞(粘液細胞)へと分化誘導され、クララ細胞は状況により繊毛細胞あるいは杯細胞にも分化していくという。もうひとつの仮説として、すでに初期肝細胞レベルでそれぞれの細胞への分化運命が決定されているのではということも考えている。慢性炎症病態において、杯細胞を減らすための戦略に応用できないだろうか。 また、アルツハイマー治療薬としてのセクレターゼ阻害薬の副作用として、呼吸系への影響を考慮する必要があるのではと思う。特に喫煙するアルツハイマー患者に対して注意して観察したらどうだろうか。 2011年5 月31日 (火) 腹減った時に鼻が利くメカニズム Cellの4月号から。Tomiのプレゼン。 ほとんどの動物の食欲や満腹感による摂食行動は神経ペプチドにより制御されていることはよく知られている。ほ乳類での摂食行動には、中枢性にはNPY、末梢性には、グレリンという神経ペプチドが関与していることが分かっていた。腹減っている時には、食べ物の匂いを敏感に感じる.今回の論文ではショウジョウバエを用いて、嗅球に相当する糸球体における投射ニューロンについて検討したところ、sNPFという神経ペプチドが重要であること、Or42bという単一ニューロンのみが関与すること、さらに、飢餓状態では、体液中のインスリン量が低下し、PI3Kの活性低下によりOr42bにおけるsNPF受容体発現が上昇し、Or42bニューロンのシナプス終末部のsNPF受容体が増加し、sNPFによるpresynapticなポジティブフィードバックにより、共存する興奮性神経伝達物質グルタミン酸の遊離が増加し、food findingに関わる中枢投射神経を活性化するということを明らかにした。タイトル「Presynaptic facilitation by neuropetptide signaling mediates odor-driven food search」においても強調されているように「presynaptic facilitation」が異常な飢餓時にのみ起こるところがポイントであろう。腹が減ったら、匂いに敏感になり、必死に食べ物を探索するメカニズムは末梢のインスリン量が重要であり、良い匂いの料理を嗅ぐと腹が減ってくるときのメカニズムと比較し、考えると興味深い。おいしいと感じる際には7割が匂いによるという。 2011年5 月26日 (木) アルツハイマーの早期診断用バイオマーカー 今朝は、Cellの1月号に発表された論文をTaniguchi君がうまく紹介した.この報告では、アルツハイマーの早期診断用バイオマーカーとして疾患の何らかの抗原に対するIgGを同定し、そのIgGを探す方法を提案している。疾患時に増加するIgG抗体とその抗体に結合するペプトイド(グリシンの窒素原子に様々な置換基を結合したペプチド類似体。ペプチドに比べて高次構造をとりやすく、容易に多彩な構造をもつペプトイドを作ることが可能)を同定し、発見したペプトイドを用いて血液中の抗体量を測定できるという。抗原が分かっていない疾患の早期診断が可能という。アルツハイマー患者22名、健常人22名の血清について調べた結果、明確な差が見られているが、健常人でも2名高い結果を示していたのは、アルツの早期診断が可能であることを意味しているのかもしれないという。この手法がアルツハイマーの悪化を抑制する薬の開発に大きく貢献するかもしれない。このマーカーの上昇と症状進展との相関があるかどうかが今後の課題かもしれない。大量のヒトサンプルを使用して検証していく今後の結果が楽しみである。面白い。 2011年5 月25日 (水) 感染初期に、単球が血液中へ遊走してくる仕組み Immunityの4月号から Ihorinが紹介。細菌に感染すると好中球や単球が増えてくる。生体防御にとって重要な現象である。骨髄から産生してくるが、好中球についてはかなり明らかになっていたが、単球については明確になっていなかった.感染初期の単球の血中への遊走は感染組織から産生されるサイトカインでは量が少なく説明できないとされてきた。今回の論文から、細菌由来の成分が血液中に遊離してくると、骨髄間葉系細胞とCAR (CXCL12-abundant reticular) 細胞上のTLR2,4,5,9などを刺激してMCP1が産生され、単球のCCR2に作用して、骨髄から血中へ単球が遊出されるという。面白いのは、細菌由来の成分 (LPS)が高濃度になると血中の単球は増えないという知見。ベルシェイプ型の濃度反応曲線をとる。本論文知見は、

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