
「薬学で"健康長寿"を目指す:腎臓・ワクチン・肺・アミロイド・老化に挑む」
*より詳しく内容を知りたい方は、研究室まで足を運んでいただければ幸いです。
*熊薬ものがたり(Web版研究紹介)でも研究内容をご紹介しています。
私たちは、アンメットメディカルニーズの高い疾患に対して、病態解明から創薬・予防、さらに社会実装までを一気通貫で推進する研究を展開しています。腎臓・ワクチン・肺・アミロイド・老化に関わる複数テーマを有機的に連携させ、健康長寿社会に資する解決策の創出を目指しています。
とくに、遺伝性疾患(オーファン)で得られる"分子基盤に立脚した確かな知見"を起点に、分子機構・病態が共通する慢性多因子疾患へと研究を拡張します。腎疾患ではフォールディング病研究の蓄積を強みに、肺疾患ではtreatable traitsの視点とヒト臨床データを踏まえたトランスレーショナル研究を推進しています。また、痘そうワクチンの製法近代化にかかる研究を企業とともに推進しています。さらに、アミロイド疾患ではATTRを主軸にアミロイドブレイクに着目し、患者検体・モデル動物での検証と構造活性相関/構造解析を通じて、より特異的な化合物創成と本質理解を深めます。加えて、線虫-老化モデルマウス--ヒトをつなぐTranslationalモデルとDXを組み合わせ、フレイル対策を含む健康寿命延伸の社会実装と人材育成にも取り組んでいます。
1. 腎臓病克服による健康社会の実現(甲斐 特任教授・Mary Ann Suico 助教)
2. 痘そうワクチンの製法近代化にかかる研究(甲斐 特任教授・Mary Ann Suico 助教)
3. 肺-代謝連関に着目した美肺長寿の達成(首藤 准教授)
4. アミロイドーシス予防法及び新規治療法の開発(首藤 准教授)
5. C-HAS × DX の実践による超高齢化社会への挑戦(首藤 准教授)
◯なぜ腎臓病研究が重要か?
腎臓は、体液恒常性(水分・電解質バランス、老廃物排泄など)を担う生命維持の要です。腎機能の低下はQOLを大きく損なうだけでなく、全身のさまざまな合併症リスクとも関わります。私たちは、進行抑制にとどまらない"病態に踏み込む治療"の実現を目標に研究を進めています。
◯対象疾患:Alport症候群・慢性腎臓病(CKD)・ネフローゼ症候群
私たちは、遺伝性腎疾患であるAlport症候群を中核に、CKDやネフローゼ症候群など、アンメットメディカルニーズの高い腎疾患を対象に研究しています。疾患ごとの特徴を踏まえつつも、共通する分子機構や治療標的を見出し、幅広い患者さんに貢献できる治療法の開発を目指します。
◯腎疾患を「プロテインフォールディング病」として捉える:研究室の強みとユニークさ
私たちが取り扱う腎疾患の一部は、タンパク質の折りたたみ(フォールディング)異常や品質管理機構の破綻が病態に関与する、いわゆる「プロテインフォールディング病」として捉えることができます。研究室では長年にわたりフォールディング病研究を継続しており、とりわけ嚢胞性線維症に関する研究成果の蓄積を基盤に、腎疾患研究においても独自の視点と技術的優位性を発揮しています。
◯病態モデルを"表現型"で読み解き、標的へつなぐ
私たちの強みは、病態モデル(細胞・組織・動物モデル等)の表現型解析を軸に、遺伝子改変・欠損による病態評価、分子標的による薬理学的解析を組み合わせ、原因→病態→治療標的を一気通貫で検証できる点にあります。得られた知見を再現性の高い評価系へ落とし込み、創薬につながる確かなエビデンスを積み上げます。
◯創薬へ:スクリーニング×病態モデル×社会実装
私たちは、創薬スクリーニングと病態モデル動物を活用した研究成果を基盤に、Alport症候群の治療薬候補を見出してきました。得られた知見と評価系を実装フェーズへ進めるため、熊本大学薬学部発の創薬ベンチャーGALTS Pharma(ガルツ ファルマ)を設立し、AMED(日本医療研究開発機構)の支援の下、社会実装に向けた開発を推進しています。
◯患者さんとともに進める研究:臨床・財団・患者団体との連携
Alport症候群研究においては、患者さんに本気で向き合う姿勢を研究の中心に据えています。神戸大学医学部、Alport Syndrome Foundation、ならびに患者団体の皆さまとのつながりを大切にしながら、患者さんの課題を研究へと確実に還元し、成果を治療へつなげることを目指しています。さらに、国際的にも当該領域で注目される研究者として選出されるなど、研究の質と社会的意義の両面から、着実な前進を重ねています。
◯なぜ製法近代化が重要か?
乾燥細胞培養痘そうワクチンLC16「KMB」は「痘そうおよびサル痘の予防」を効能・効果とするワクチンです。現行製法では初代ウサギ腎臓細胞を用いており、製造のたびに動物から細胞を採取・調製する工程が必要となります。この工程は、供給の安定性や製造の再現性の観点で課題となり得るため、より近代的で安定性の高い製法への転換が重要です。
◯研究体制:アカデミア×企業連携による開発推進
令和4年度「ワクチン・新規モダリティー研究開発事業(重点感染症に対する感染症ワクチンの開発)」において、痘そうワクチンの製法近代化に関する研究が採択されました。本研究では、熊本大学生命科学研究部附属ワクチン開発研究センター(基礎研究部門)とKMバイオロジクス株式会社が連携し、研究から製造プロセスの高度化までを見据えた体制で取り組みます。
◯研究の狙い:株化細胞バンクの確立による製造の安定化
初代細胞依存の製造工程を見直し、製造ごとの細胞採取・調製を不要とするため、ワクチン製造に適した最適な株化細胞を探索し、株化細胞バンクの確立を目指します。これにより、より近代的で安定性・再現性の高い製造プロセスへの転換を検討します。
◯アプローチ:初代細胞の特性を踏まえた最適株化細胞の探索
初代ウサギ腎臓細胞の特徴を基盤として、ワクチン生産に求められる特性を満たす株化細胞を探索し、将来的な製造の標準化と品質の安定化につなげます。
◯"美肺長寿"をどう捉えるか?
肺は呼吸機能だけでなく、炎症・酸化ストレス・免疫恒常性・血管機能など多層的な生理機能に支えられた臓器です。私たちは、肺の健やかさを保つことが、併存疾患やフレイルを含む全身の健康維持につながるという考えのもと、肺-代謝連関に着目し、「美肺長寿」の実現を目指しています。
◯Treatable traitsの視点:ヘテロな肺病態を"介入可能な特徴"へ落とし込む
肺疾患(COPD、肺がんなど)の病態は一様ではなく、同じ診断名でも炎症像、リモデリング、血管障害、代謝背景などが異なるヘテロ性を示します。そこで私たちは、病態を診断名で一括りにするのではなく、treatable traits(介入可能な特徴)として分解し、個々の病態に応じた治療戦略へつなげる研究を展開しています。肺機能・炎症・血管系・代謝・併存疾患の情報を統合し、層別化、新規標的の同定、治療反応性の予測に資する評価系の構築を進めています。
◯ヒト臨床データ×細胞・マウス:Translationを意識した研究展開
私たちは、熊本大学薬学部 薬物治療学分野とともに、ヒト臨床データを丁寧に読み解き、細胞・マウスでの機序研究や介入研究へと接続する、Translationを強く意識した研究を推進しています。臨床で見えてくる病態の多様性(ヘテロ性)や併存疾患の影響を、実験モデルで検証可能な"traits"として再構成し、実装可能な治療・予防の糸口を見出します。
◯喫煙とCOPD:尿中ニコチン代謝マーカーから"曝露と病態"を捉え直す
COPDの主要因として名高い喫煙について、熊本大学保健学科 環境衛生解析学と協働し、尿中ニコチン代謝マーカーに対する影響を手がかりに、曝露の実態と生体影響をより精緻に捉える臨床研究を展開しています。特に、近年使用が拡大している加熱式タバコの影響に着目し、従来型喫煙との違いも含めて解析することで、病態の層別化やリスク評価、介入設計に資する知見の獲得を目指しています。
◯オミクス解析で迫る:上皮・内皮を含む細胞ヘテロ性と肺生理の本質
より本質的な研究として、シングルセル解析技術を含む各種オミクス解析を駆使し、肺の上皮系細胞にとどまらず、内皮系細胞の機能と相互作用、さらに多様な細胞集団からなるヘテロな細胞生態系に着目して、肺生理そのものの理解を進めています。病態時に何が"破綻"し、どの細胞・経路が"可逆的"に介入可能かを同定することで、treatable traitsに基づく標的設定と治療戦略の精度を高めます。
◯代謝性疾患を"肺病態のモジュレーター"として捉え、創薬・予防へ
肥満や糖尿病などの代謝性疾患は、肺の炎症、リモデリング、血管機能、免疫恒常性をモジュレートしうる重要な要素です。この観点から、私たちは天然資源等を活用し、代謝・炎症・血管機能の調整を通じて肺病態を制御する創薬、ならびに発症・増悪を食い止める予防戦略の研究も展開しています。
◯目指すゴール:ヘテロな肺病態の理解から、個別化治療と予防へ
肺の細胞・分子基盤の理解(オミクス)と、肺-代謝連関・併存疾患・曝露(喫煙等)を含む全身視点を統合し、treatable traitsに基づいた個別化治療と予防を実装可能な形へ落とし込むことを目標としています。
◯研究の主軸:遺伝性ATTRvアミロイドーシスから"普遍的な介入点"を見出す
私たちは、遺伝性ATTRvアミロイドーシス研究を主軸に、アミロイド形成・沈着の分子機構と病態進行の鍵となる過程を解明し、治療薬(法)の開発につなげています。ATTRvは分子基盤を検証しやすい一方で、そこで得られる知見は、アミロイド疾患に共通する"介入点"の同定にも有用です。
◯高齢化社会で重要となる疾患へ:アルツハイマー病/老人性ATTRwtへの展開
高齢化が進む社会では、アルツハイマー病や老人性ATTRwtアミロイドーシスが、より多くの人にとって現実的な課題になります。私たちはATTRv研究で得られる病態理解と評価系を足場に、これらの疾患へ介入するヒントを得るための研究を展開しています。
◯注目する戦略:アミロイドを破壊する「アミロイドブレイク」
私たちが特に注目しているのは、形成されたアミロイドに直接働きかけて破壊・脆弱化を促す「アミロイドブレイク(アミロイドブレーカー)」の概念です。沈着・凝集が進んだ状態でも介入余地を広げうるアプローチとして位置づけ、作用機序の解明、評価系の整備、候補探索と検証を進めています。
◯患者検体で検証する:ATTRアミロイドーシスに対する作用の解明
ATTRアミロイドーシスの視点から、熊本大学医学部 神経内科学との共同研究により、患者由来のアミロイド検体に対するアミロイドブレーカーの作用を検討しています。臨床現場に根ざした検体解析を通じて、実際の病態に即した作用様式や有効性評価指標の確立を目指します。
◯モデル動物で検証する:アルツハイマー病モデルマウスに対する影響評価
アルツハイマー病研究では、東京大学医学部 神経病理学との共同研究により、アルツハイマー病モデルマウスに対するアミロイドブレーカーの影響を検討しています。病態進行や病理変化への作用を多面的に評価し、創薬のみならず予防・早期介入へつながる知見の獲得を目指します。
◯SARと構造解析:より特異的なアミロイドブレーカー創成と本質理解へ
さらに私たちは、アミロイドブレーカーの構造活性相関(SAR)の解析を進め、どの化学構造要素がアミロイドブレイク活性や選択性に寄与するのかを体系的に明らかにしています。加えて、アミロイドの構造解析基盤の解明にも取り組み、ブレーカーが"どの構造に、どのように作用しているのか"を構造レベルで捉えることを目指しています。これらの研究は、より特異的で有効な化合物創成につながるだけでなく、種々のアミロイド病に共通する原理や疾患ごとの差異を理解するための、より本質的な研究へと発展します。
◯天然資源からの機能性物質探索:実装性も見据えた候補創出
アミロイドブレイクを含む介入戦略の実現に向けて、天然資源に由来する機能性物質の探索にも注力しています。安全性・供給性・実装性を視野に入れつつ、独自の評価系で候補のスクリーニングと最適化を行い、創薬・予防の両面で活用可能なシーズ創出を目指します。
◯目指すゴール:ATTRvを起点に、治療と予防の両輪で健康長寿社会へ貢献
最終的には、ATTRvで磨いた病態理解と介入技術を起点に、アルツハイマー病やATTRwtといった加齢関連疾患にも波及可能な知見を積み上げ、治療と予防の双方から健康長寿社会に貢献することを目標としています。
◯なぜ「フレイル」か?
健康長寿社会において、フレイルは生活機能低下の入口であり、要介護リスクや併存疾患の悪化とも深く関わります。私たちは、フレイル対策を"健康寿命を守るための実装課題"として捉え、介入候補の探索から検証、社会実装までを一気通貫で推進しています。
◯C-HAS:健康寿命を"測れる"線虫基盤から、フレイル関連指標へ
健康寿命延伸研究では、「何を健康と定義し、どう定量するか」がボトルネックになります。私た ちは線虫の健康寿命評価系 C-HAS を中核に、運動能・ストレス応答・生存・加齢表現型などを定量化し、介入候補(化合物・天然素材・遺伝子操作等)の効果を再現性高く比較できる基盤を整備しています。
◯老化モデルマウスの活用:線虫から哺乳類へ"翻訳"する検証ステップ
線虫で得られた知見を実装可能な成果へ高めるには、哺乳類レベルでの再現性と安全性、臓器間ネットワークを踏まえた検証が重要です。そこで私たちは、老化モデルマウスを活用し、筋・代謝・免疫などフレイルに関わる多面的な指標で介入効果を検証します。線虫で見出した"効く要素"を、マウスで「どの機能がどの程度改善するのか」「どの臓器・経路に効いているのか」まで掘り下げることで、ヒトへの外挿性を高めます。
◯線虫-マウス-ヒトのTranslationalモデル:より強固なフレイル対策へ
私たちは、線虫-マウス-ヒトのTranslationalモデルを活用することで、フレイル研究をより強固なものにします。
線虫:高速・高再現性で候補を広く探索
マウス:哺乳類の臓器連関・安全性を含めて検証
ヒト:臨床・疫学的視点と接続し、実装可能な指標へ落とし込む
この多層モデルにより、探索(発見)と検証(確からしさ)と実装(使える形)のギャップを埋め、社会実装に耐えるエビデンス形成を目指します。
◯DX(デジタルトランスフォーメーション)で加速する:PDIII×NEB×評価系×解析の学習サイクル
有用植物データベース PDIII、天然物エキスバンク NEB、C-HASや老化モデルマウス等の評価系を接続し、探索→検証→学習(改善)のサイクルを高速化します。Wet(実験)とDry(情報)を往復することで、候補の選定精度を高め、再現性の高い"当たり"を効率よく積み上げます。
◯社会実装と人材育成:アカデミア×ベンチャーの両輪で推進
C-HAS × DXの実践・社会実装は、熊本大学発の天然物もの・ことづくりベンチャーC-HASプラスにて推進しており、アカデミアとベンチャーの両輪で、研究成果の社会実装と次世代人材の育成に向けて取り組んでいます。