研究教育業績集 甲斐広文先生 教員生活25周年および教授就任10周年記念
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49 軸索伸長や機能、繊毛運動に必要な動力を生み出す分子モーターとして知られていた。今回の発見は、免疫応答の基本的なメカニズムである抗原認識とT細胞活性化に関与すること、さらに、ダイニンは、細胞内の分子や液胞を運搬するのではなく、「細胞膜にある分子複合体をそのまま免疫シナプスの中心に向かって細胞表面に沿ってけん引する」ということ明らかにしている。今まで、関与が言われていたF-アクチンはマイクロクラスター形成のイニシエーションに関与し、ダイニンはその後の移動と収束に関与するという一連の流れが明確になった。この研究で用いられている実験法も面白い。この雑誌の同号にB細胞でも同様な現象が起こることが発表されている。細胞膜にある分子複合体を移動させるという、微小管の役割は免疫系以外の細胞でも観察されうるのだろうか興味がある。 2011年7 月20日 (水) 親のストレスが非メンデル遺伝的に子に遺伝するメカ 大変面白い研究内容が筑波の理化学研究所から発表された。Cellの6月号に掲載。M2の福田君が紹介。 結論は、「ストレスによる遺伝子発現の変化が、DNA配列の変化を伴わず(エピジェネティク)に親から子供に遺伝する」、という新たなメカニズムを発見したということ。ショウジョウバエの転写因子dATF-2 が、転写が不活発なヘテロクロマチン構造の形成に不可欠であるが、熱ストレスや浸透圧ストレスでリン酸化されると、ヘテロクロマチン構造を弛緩して転写を活発にし、その状態が子供に遺伝するという。さらに、親が受けたストレスの影響は子供にだけ遺伝し、孫には遺伝しないという。また、二世代にわたってストレスを受けると子供だけでなく孫にまで伝わり、その後、何世代にも遺伝する可能性があるという。この研究は、ストレスが影響する非メンデル遺伝学のメカニズムを初めて解明しただけでなく、親の受けたストレスが子供の疾患発症頻度にも影響する可能性を示す成果としてかなり注目されている。面白い。 2011年7 月14日 (木) 糖尿病性腎症に光か Journal of Clinical Investigation 2011年6月号から2報。薬学科6年のYukarin. 糖尿病から進展する慢性腎臓病の進展抑制は透析患者の増大の抑制に繋がる。ポドサイトという細胞のダメージが糖尿病性腎症に大きく関与していることは知られていた。今回の連報で報告された内容は、糖尿病モデルであるdb/dbマウスで、ポドサイトにおけるmTORC1の活性化が認められ、mTORを抑制するラパマイシン(腹腔内投与で週3回)が糖尿病性腎症を抑制するという.また、ポドサイト特異的にmTORC1を遺伝的に活性化したマウスでは可逆的な腎障害が発現し、その障害もラパマイシンで抑制されるという。ラパマイシンについては、過去には、腎症を逆に悪化するという報告もあり、臨床でトライするには、不安がある.また、糖尿病性腎症がひどくなってくると効果がないことから、腎症発症前から予防的に投与するには、副作用の点で難しいのでは. 今朝の「なでしこJAPAN」は面白かった。歴史を作った。 2011年7 月13日 (水) 細菌増殖を抑えるメカ Nature Med 2011年6月号から。M2のTomy。学部3年からスタートした朝ゼミプレゼンも13回目で、落ち着いた分かりやすいプレゼンでした。実験も平行して実施しながら、短期間でプレゼンの準備する能力は今後も役に立つ。 PGRP (or PGLYRP: peptidoglycan recognition protein) というタンパク質が細菌の増殖を抑え、殺菌していることは知られていたが、そのメカニズムはわかっていなかった。この論文では、グラム陽性菌の分裂部にPGRPが作用し、細菌のCpxAに結合し、CpxRを介して遺伝子発現制御やラジカル産生などを介して細胞死を起こすということをクリアに示している。グラム陽性菌にはペプチドグリカンが細胞表面に多いためCGRPは分裂期の分裂部のみに作用し、グラム陰性菌はペプチドグリカンが少ないため、CGRPは菌の外膜全体に結合し、作用するという。抗生物質が細菌に作用し、増加したミスフォールディングタンパク質がCpxA-CpxRにより菌増殖を抑制するという。さらには、ペプチドグリカンの合成を抑制する抗生物質を作用させると、PGRPが菌にアクセスしやすくなり、協調して、相乗的に抗菌活性を示しているのかもしれない。耐性菌に対する対応にも活かせる研究成果か。lysozymeが、グラム陰性菌だけでなくグラム陽性菌にも作用するメカも説明できるかも。 PGRPの産生が低下する生体側の状況はありうるのだろうか、興味がある。PGLYRP-1は白血球、-2は肝臓、血中、-3,4は皮膚、目、唾液腺、舌、喉頭、食道、胃、腸に発現しているという。

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